Laboratory for Particle Properties (Phi-lab)
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MTV(Mott Polarimetry for T-Violation experiment)


MTV実験は立教大学 村田研究室と共同で行っています。

宇宙が物質優勢あるという謎は、小林・益川機構と異なる大きな時間反転対称性の破れが存在する事を示唆しています。CKM模型による原子核のベータ崩壊における時間反転対称性の破れは無視出来るほど小さい為、もしゼロでない対称性の破れが観測された場合は素粒子の標準模型を超える物理の発見を意味します。

偏極した原子核のベータ崩壊における電子の状態には時間反転対称性に感度を持つ物理量が含まれているため、ベータ崩壊を精密に測定することで時間反転対称性の破れの有無を調べることができます。我々はカナダのTRIUMF国立研究所にて生成された偏極8Liビームを用いて、時間反転対称性を破る相関を世界最高精度で探索しています。

原子核のベータ崩壊率の式中のR相関は親核のスピンJ、電子の運動量p、電子のスピンσに依存し、R相関のみをあらわに書いたベータ崩壊率の式は以下のようになります。 \begin{align} W\propto(1+R\vec{\sigma}\cdot(\vec{J}\times \vec{p})) \end{align} 係数Rを含む項をR相関項といい、時間反転変換に対して符号が反転します。このことは、もしRが0でない値を取るならば時間反転変換によってベータ崩壊の性質が変わること、すなわち時間反転対称性が破れていることを示します。

R相関を測定するためには電子の運動量とスピンの状態を測定することが必要です。そのために、MTV実験ではCDC(Cylindrical Drift Chamber)と呼ばれる検出器と、Mott散乱による散乱方向の非対称性を利用しています。 原子核で電子が散乱する際、電子のスピンの状態によって散乱確率が異なり、これはMott散乱と呼ばれています。これを利用することで電子のスピン偏極率を散乱方向の左右非対称性として観測することができます。 これとCDCを組み合わせることで、電子の運動量とスピン偏極率を同時に測定することが可能になっています。